東武レトロ特急「きりふり」に乗る(350系の風景)
特に強い思い入れがあるわけではないけれど、ずっと気になる存在。
機会があったらと思っているものの、なかなか機会がそうは来ない。
そんな列車が東武鉄道の特急「きりふり」。
似たような思いを持っている鉄道ファンはそこそこいるのではと思う。
東武特急というと「スペーシア」や「りょうもう」であるが、
そんな列車の陰に隠れて、この特急はひっそりと土日だけ現れる。
使用される車両は350系。
もとはといえば、急行りょうもう号用の車両で、製造されて40年超、改造されて20年超だ。
改造されたとはいえ、面影が無くなるほどのリニューアルではない。車内外に過去の面影が色濃く残されている。
元急行ということで花形列車としての時代を経験したわけでもないこの車両。地味ながら、昭和の登場から、遠い未来の2021年の今日まで現役で走ってくれていることが奇跡のような存在だ。
そんな鉄道ファンの心をくすぐるポイントがちりばめられたこの車両。
いつかそのうちと思っていたら多分突然いなくなりそうで、
そうなる前に、2021年の休日乗ってみることにした。
出発はやっぱり浅草駅。時刻は10:30。
「けごん」や「りょうもう」といった多くの人が知っている発車名に交じって、聞きなれない列車名が表示されている。
行先は東武日光。走るルートはけごんと同じ。
ただこの車両のためだけに与えられた列車名だ。
ホームにあがるとすでに入線済み。レトロな浅草駅のホームに違和感なくたたずんでいる。
ホームで缶コーヒーを買っていざ乗車。
乗ってみるといきなりやっぱりレトロ感を感じる。
平成・令和の特急とは全く違った昭和の雰囲気がそこにはあふれている。
入口のドア、照明、モケットの色、テーブル。そして座席の感覚。
この日の乗車率はそこそこ。
前日にネットで座席を指定したときは一両に数名といったガラガラの予約状況だったのに、思ったより乗っているという印象。
特急に乗るというと数週間前か、遅くとも前日にはチケットを買い、わくわくして待つというものと思っているが、行き当たりばったり当日に切符を買って乗るという人の方が多いのは意外だった。
乗客は多分僕と同じ考えの鉄道ファンが4分の1くらい。
あとの人は鉄道のことは よくわからないけど、乗換案内のアプリで検索したらたまたま出てきたからという人だろうと思う。
実はこの列車スペーシアより特急料金が少し安い。
それを知ってあえて狙って乗るという玄人はさすがにあまりいないと思う。
いよいよ定刻10:38に発車。
隅田川を渡り、とうきょうスカイツリー、北千住と停車する。
そこそこの乗車がある。とうきょうスカイツリーでも結構乗車があったのは意外だった。
北千住で途中乗ってきた少し年配のおばさまが方の集団が、乗るなり「何これ座席が狭い!」と文句を言っていた。
そういうなら30分前のスペーシアや、
この列車の約20分後のリバティを乗ればよいわけで、まさに特に何も調べず、たまたま列車の時間だけで選んだのだろうと思う。
当然、座席が少し劣る分、良心的にも料金が安いことも知らないのだと思う。(JR等は車両が古いから安くするなんていうことは基本はない。)
この列車の独独の雰囲気を味わうわけでもなく、その貴重さも知らずして、この列車に乗るとはただもったいないと思うが、普通の客にはやっぱりわからないのかもしれない。
座席はリクライニングもしなければ、確かに狭い。
だけどそれがいいのだ。
でも意外にも足元には足置きがあり、サービス精神は感じることができる。
そして古いけどシートも何もかも結構きれいに手入れがされている。
座席に身を任せていると、本当に昭和の古き良き喫茶店の椅子に座っている感覚がしてくる。
窓の外を眺め、この雰囲気とともに、列車に揺れられるのは本当に至福の時間だ。
このテーブルも昔の485系特急列車のものにも似ていて懐かしい。
北千住の後は、春日部、栃木駅に停車をし、そして次は新鹿沼。
日光に行くことが目的でもない自分は、時間の関係上乗っていられるのはここまで。後ろ髪惹かれる思いでホームに降りる。
そして後姿を見送った。
この列車に乗った翌週、12月10日に東武鉄道から3月のダイヤ改正が発表された。
(2022年3月ダイヤ改正資料)
新しい時刻表にこの特急「きりふり」の名前はない。
10時30分前後の「きりふり」のダイヤのスジは「リバティきぬ」に。
以前は浅草と東武宇都宮の間を特急「しもつけ」として走っていた事もあったが、それはすでに2020年4月を最後に運転をされておらず、その名も当然ない。
ただ東武鉄道はまだ廃止ともいっていない。
ただひっそりとその名がないだけだ。
しかし、おそらく定期列車としての役割は終える可能性が高い。
リバティが増備され一気に本数を増やしている。 6050系に続きこの車両も多分役割を追われることになるのだと思う。
存廃はとても気になるところだが、いずれにせよ、すでに実用的な存在意義はあまりなく、いずれ近いうちに姿を消すのは間違いない。
だけどわかる人にはわかるであろう情緒的価値はたっぷりのこの列車。
気になる方は、いつかそのうちと言わず、いますぐにでも一度味わってみていただくのが良いのではと思う。
昨年の185系「踊り子」に続き、昭和の列車がまた一つ姿を消していく。
よりひっそりと。
■特急きりふり時刻表(2021年12月時点)
土日のみ運転
(下り)
きりふり281号 浅草10:38 →東武日光12:39
きりふり283号 浅草16:39 →新鹿沼17:58
(上り)
きりふり82号 春日部9:16 →浅草9:52
きりふり284号 東武日光14:00 →浅草16:05
※上記時刻はあくまでも参考までになります。最新の時刻表は公式サイトをご確認ください
■東武特急時刻表
https://www.tobu.co.jp/railway/special_express/timetable/
■2022年3月ダイヤ改正プレスリリース
https://www.tobu.co.jp/cms-pdf/releases/20211210120436z2ZpUL2macF_-vcgP5S43w.pdf
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